不謹慎な新年

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「亜子は優等生だから行かせてもらえたんだよ。東京の学校に行かせるなんて、お金をかけて人間をスレさせるだけだってうちはとりつく島もない大反対」  優美は少し未練がましくため息をついた。 「そんな事もないけど……説得を手伝ってくれた担任と進路指導の先生には一生頭が上がらないかもね」 「うちも弟がいるから似たようなもんかな。手に職つけるなら金出してやるって。それで医療系にしたの」  貴子が同意した。 「それで亜子、将来は先生になるの?」 「あんまり。親との約束だから教員免許は取ろうと思うけど。世話にはなったけど先生達って『ダサい』仕大人の代名詞みたいなもんじゃん。私ら生徒に陰で好き放題言われながら、それでも生徒達のために昼夜なく時間を割いて走り回るとか自分には絶対無理。だからといってやりたい事もまだよくわからないんだけど」  ただ「親元を離れたい」「ここよりずっと広い世界をみてみたい」という漠然とした希望だけは強く持っていたので、現状には満足している。 「ま、そのうち何かが見つかるでしょ」 「あははは」 「だから遊べって言ってるのに」  優美と貴子が可笑しそうにけしかけた。 「市部の理系の学部なんて二三区とは全然違うよ。全然地味で堅実な感じ。私なんて寮生活だし、学費は仕送りしてもらえるけど、生活費は自分で稼がなきゃならないし。テレビや雑誌に出てくるようなボディコンスーツでコンパやディスコ三昧の『イケイケギャル』なんてどこにいるの?って感じ」  二人はまた笑った。  そうは言っても貴子や優美の通う医療系の学校の厳しいカリキュラムの比ではない。二人は県内の比較的大きな別の街で寮生活やアパート暮らしをしながら、それぞれの学校に通っている。  どちらの学校も実習系はもちろん座学も出欠が厳しく代返もできないとか、試験に落ちて追試も落ちたら単位が取得できず即留年だとか、資格試験に受からなければ卒業資格がもらえないという話は前々から聞いていた。  身につけるべき知識や教養が実務の即戦力になるわけでもなく「学術探究」やら「幅広い視点」といったふんわりした概念を盾に自由が許されている自分達とは違い、卒業してすぐ、人様の健康や命を守る現場に立たされるのだから当然なのかもしれないが。
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