不謹慎な新年

5/9
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ
「亜子に会えてよかった」  姉貴肌の貴子がしみじみ言った。 「え、お正月の時にも会ったじゃん」 「成人式で、ってことだよ。県外組はわざわざ帰って来ない子も多いしさ」 「今年は連休だから、それでも帰って来た方みたいだよ」 「十五日の祝日だけ『ぽん』と平日の真ん中にあったら、私もきっと無理だったよ」  亜子は実感を持って二人にそう答えた。  亜子自身も直前まで迷っていたし、決めてからは講義と課題とバイトのやりくりで睡眠時間を削った上での分刻みだった。  焦土から脱しようとする戦後復興の貧しい時代、巣立つ若者達を励ます意味で各自治体で記念式典が行われるようになったのだと聞いたことがある。高度経済成長以降、地方の若者が都会へ流出し続ける事態は想定されていなかったのだろう。 「せめて成人式、松の明ける七日とかにしてくれたらよかったのに」 「それじゃ崩御当日だったじゃない。中止になってたかもしれないよ」 「ええっ……そうなのかな?」  中止にはならないまでも、自粛ムード満載のお通夜のような式典になっていたのかもしれない。本音を言えば、この二人に会えれば式の方はどうでもいい。 「でも、同窓会は七日の方がよかったのかもね。今日の顔ぶれはいつものみんな、って感じだし。会わない顔が見たかった」 「いつもの?」  優美の言葉の意味がわからず、亜子は聞き返した。 「県内組はこれまでもちょこちょこ集まってたんだよね」  貴子が悪びれずに補足した。同窓の集まりが何度かあったという話は初耳だ。亜子は何となく複雑な気分になる。  亜子は何もない地元と地続きの県内の学校に通う二人を初めて羨ましいと思った。いや、高校で親友になって以来ずっと二人が羨ましかった。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!