叙述

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叙述

儚く散った僕の友達。 唯一の友を喪っても尚、笑顔で居られるほど薄情な僕。 この世界で、他人の過去に生きる住民達はきっと自分の未来が他の世界の住民達の過去である事を知らない。 其れを知るのは、誰の過去にも生きていない、本当にイレギュラーの僕だけなのだ。 僕の職業は、宣告師。 だけど、何もかも教えてあげるんじゃなくて、本当に死の間際な人に余生をどう活きるかを教えてあげている。 此処は君らからパラレルワールドと呼ばれる、御伽噺の国。 過去を準えて生きている彼らは、新しい頁を拓いて書くわけではない。誰かの過去と同じ様に、誰もが過去に生きている。 これは幻想夢で、街行く人々も御伽噺のエキストラに過ぎない。 此処は、御伽噺の国。 君らが鏡を透して、観た世界。其処は、君らからしたら過去の世界で、僕らの棲む世界なんだ。 そう、だから僕は識ってる。 知りたくないことさえ理解してしまう。御伽噺の国って残酷だ。 本を読むのは頁を捲りながら、ドキドキワクワクって少しずつ未来を識っていって楽しむじゃないか。 僕らは、誰かの過去。御伽噺の国に密かに住まう住人。そんなドキドキワクワクなんてない。 然し、僕は別世界に"僕"を持たない。御伽噺の国こそが、僕の世界なんだ。だから、僕にだけは其れがあるのかも知れない。 御伽噺の国で生まれ育った僕は、総てを視る力がある。 この御伽噺の国は、君らの過去を準えた世界なのだよ。だから……だから、僕だけが君らの過去であり、僕らの未来の結末を知っているんだよ。 僕は宣告師。鏡の世界、御伽噺の国に棲む、……否、語弊有りだ。 鏡の世界、御伽噺の国を創造して過去噺を準える国を作ったと言ったが正しい。 それがイレギュラーと呼ばれる原点なのかも知れない。 僕こそが鏡の世界で御伽噺の国のレゾンデトールなのだ。 そんなイレギュラーの手記を手に取った君に、或るエキストラの噺をしたい。
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