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あの夜のことは一生忘れないだろう。
あの日も昼夜問わずゲーム三昧だった俺は、疲れた目を休めようと、星がわんさかと輝く空を眺めていた。
「はぁ…今にも降ってきそうだ。」
そんな恥ずかしい独り言を言いながら物思いに耽っていると、隣の妹の部屋から盛大な笑い声が聞こえる。
「あはははは!ちょっとやめてよ、笑いすぎて腹筋崩壊する!…えー?そうなの?」
…せっかくのセンチメンタルな気分が台無しだ。
何が彼女をそこまで笑わせるのか。
そして、腹筋はそんな簡単に崩壊するほどやわじゃない。
最近の若者は何においても誇大表現がすぎるな。
そんなどうでもいいことを考えつつ空を眺めていると、隣の窓から妹が顔を出した。
「わ、本当だ!綺麗ー!」
電話の先の人物に笑顔でそう話しかける妹だったが、隣から顔を出す俺に気づくとその顔は歪み、苦虫を噛み潰した様な表情に変わる。
「…何見てんの。キモいんだけど。」
そう吐き捨てると、妹は勢い良く窓を閉めた。
3つ下で中学生の妹、薫(かおる)は絶賛反抗期中。
常に学年10位以内の成績をキープ。
所属するテニス部では1年の頃からレギュラーで、見た目だって悪くないし、我ながらよく出来た妹だと思う。
そんな妹から見て、特に何の取り柄もなく、根暗でゲームばかりしている兄は汚点以外の何者でもないのだろう。
お兄ちゃん、お兄ちゃんと俺の側から離れなかったあの頃が懐かしい。
今となっては、そんなことを考えているとバレただけで刺されかねないな。
「はぁ…。」
薫の性格の歪みを憂いてため息が止まらない、こんな優しいお兄ちゃんに少しくらい優しくしたってバチは当たらないぜ。
害した気分を切り替えようと、俺はライフウォーター(ミルクティー)を得るため部屋を出た。
リビングを目指し階段を降りる俺は、またもや嫌な現場に出くわす。
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