冬のはくちょう座

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「どういわれようと構わないさ。私が見たいのはこれなんだ。この原稿用紙なんだよ。綺麗に装丁された物語なんかは本屋に行けば山ほど並んでる。でもこの原稿用紙は、その人自身のストーリーはここでしか見れないんだよ。私はそれをみるのが好きなんだ」  はくちょう座はまた、僕にその原稿用紙を返した。今度は強く握るように、と念を送るように僕の手を押さえつけてきた。 「これは大事に閉まっておくといい。また、なにが書きたいのか分からなくなった時に、すぐ思い出せるように」  僕は返事もできないまま、うつむいて泣いていた。  はくちょう座もそれ以上は何も言わずに、窓の外へと身を乗り出して雪の降る夜空へと飛びだっていった。遠ざかる白いからだが、雪と同化して完全に見えなくなっても、僕はじっと窓の外を眺めていた。 ──牡羊座。牛飼い座。はくちょう座にカシオペア……    形容しがたいくらい、綺麗な夜空だった。
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