冬のはくちょう座

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 宙をたゆたう雪をみて、僕は星空を思った。  四畳一間の一室で暮らす僕は小説家志望だったと思う。就職先の決まらなかった僕は、“夢を追う”という建前の盾をかまえ、大学を出てすぐに都会に引っ越した。本当は地元の人たち会うのを恐れてだとは僕しか知らない。  収入源は週に四日のアルバイト。爪に火をともすとまではいかないが、それなりに貧乏な生活を送っていた。昨日から部屋の蛍光灯が切れてしまったため、机の上にある小さな電気スタンドだけが灯火だ。  あとは小説をかくだけ。そしたら僕の“盾前”は完成して、だれからも文句を言われず、むしろ今の生活を応援してもらえるらしい。  ただ一作。それだけでいいんだ。そう、理解はしていてもなかなか筆が進まず、大学を出てから半年がたとうとしている。僕は小説を書くのが怖かった。小説を一つ作り上げた途端、僕の小説家としての値段が決まってしまう気がした。僕がなんの才能も持たない赤子であると露呈するのがこわかった。  今日はバイトで疲れたから明日かこう。書く前にほかの小説を読んで研究しよう。いまは準備期間だ。最後に大成すればいい。     
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