冬のはくちょう座

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 原稿はとまったままで、誰に向けてかも分からない言い訳だけが堆く累々していく。一日の終わりが近づくとやけにやる気がでてきた。この作品を書き上げたら、名声が僕を待ってる。でも今日はもう遅いから、明日にしよう。明日からはちゃんと計画をたててさ。──あぁ、もう。  ストーブもないこの家で冬を越すのは思った以上につらかった。今夜も冷え込むらしい。僕は床に無造作にしかれた布団から出るのが億劫で、今日も机のまえに座れずにいた。とは言っても寒さのせいで眠れないので、ただ毛布にくるまってぼうっと横になっているだけだった。  視線の先──窓の向こうには真っ白な雪が、間断なく降り続けている。ずっとその白い輝きを眺めていると、だんだんと星が空から降っているように見えてきたので、僕はふと、星座を探してみた。  牡羊座。牛飼い座。はくちょう座にカシオペア!  季節関係なく空から落ちてくる星座はどれもいびつな形をしていたが、それを探すのが楽しくなってきて気づけは窓の近くまで身を運んでいた。時間経過で曇るので窓を開く。つめたい風が吹きこんできた。  机の上に置いてあるだけの原稿用紙が、風に吹かれて飛ばされた。僕は仕方なしに窓を閉じ、散らばった紙を拾いにいった。 ──あ、はくちょう座。  僕がそう思ったのは唐突なことかもしれないし、必然であったかもしれない。だけど、不思議と驚きはしなかった。     
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