冬のはくちょう座

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 僕の目の前に今、スーツを着た白鳥が散らばった紙をまとめて取り、一つ一つ内容を確認していることが当たり前の出来事のように感じたのだ。僕はそのスーツ姿の白鳥が、さっきまで宙に揺られて旅をしていた“はくちょう座”であると理解した。はくちょう座は僕がじっと彼を眺めているのに気づき、エヘンと空咳をした。    「この小説の作者は君かい?」 「え?」突然の質問に僕は当惑した。だって、彼が持っている原稿用紙は何の字も書かれていないんだもの。 「作者は君なんだね?」はくちょう座が引かないものだから、僕はつられて首を縦に振ってしまった。 「やはり、君が作者か」彼は満足そうに笑みを浮かべ、原稿を長いくちばしの上にもちあげて矯めつ眇めつしている。  はくちょう座が何枚か紙をめくったのちに、急にムムっと目をこらして原稿用紙を目に近づけたり、遠ざけたりした。 「これは途中で終わってるのかい? それともここで完結してるのかな?」  はくちょう座は僕に、原稿用紙の束の一番上から一枚をぬきとって渡した。当然、何も書かれていないまっさらな原稿である。僕は困った表情をはくちょう座に向けてみたが、その視線に対して彼も困った表情をしてしまった。 「やっぱり、終わってるのだね?」しょぼくれた声で言う。僕は何も答えることができなかった。かつがれている気がした。 「そうだ!」とはくちょう座は大きな声を張り上げて僕に提案した。 「これは三部作にしよう。そうしないかい? ここから新たなストーリーが始まるんだ!」     
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