アリクイさんと

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自宅のドアを開けるとアリクイが居た。 狭いボロアパートの一室、俺の部屋の真ん中で両手を広げて威嚇していた。 畳にアリクイ あぁなんてミスマッチなんだろう…と俺は理解に追いつかない頭でぼんやりと考えた。 アリクイは突然の侵入者である俺に対して威嚇のポーズを維持している。 この空気を変えなければと俺は言葉を探した。 「……あ、間違えました」 俺、佐々木慎二はそのままそろりと部屋を後にし、ネームプレートを確認した。 そこには間違いなく見慣れた佐々木の名前が書いてあった。 「やっぱ俺の部屋じゃねーか!!!」 そう、勢い良くドアを開けながら再びアリクイと対面した。 「……おい、お前なんなんだよ」 アリクイは両手を広げてただ威嚇をするだけかと思いきや、長い沈黙を破り喋った。 「…………アリクイです」 そう、ニンゲンの言葉を喋り返答した。 「喋ったぁぁあぁぁぁぁ!!!!」 「失敬な、オマエこそ良く喋るニンゲンだな」 佐々木は眉間に皺を寄せた表情をアリクイにされて、見下されるように見上げられた。 「ま、まぁ、俺は人間だし……ところでどうしてウチに?」 「いい匂いがした……そう、この辺とか」 そう言ったアリクイはトコトコと一本の柱をペチペチと鋭い爪の付いた手で叩く。 佐々木は嫌な予感がした。 「いい匂いって、〈美味しそう〉ないい匂いの事じゃないよな?」 「〈美味しそう〉ないい匂いに決まってるだろ」 「ですよね!!!知ってた!!!」 「それだったら話が早いな」 アリクイはニヤリとして一枚の用紙をどこからか取り出して佐々木の前に差し出した。 「え、これは…?誓約書?」 「そうだ。どうだ?一緒に住まないかニンゲン?」 誓約書に一通り目を通した佐々木は足元に転がっていたボールペンで名前を記した。 「佐々木慎二だ。俺の名前、わかったか?アリクイ」 佐々木とアリクイの奇妙な同居生活の始まりだった。
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