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8 真犯人
ヤマサキの葬式も終わって、僕は出雲に戻ってきた。かすみ荘の駐車場にパトカーが停まっていた。
狙いは僕か?僕のイニシャルにもNがつく。
島に渡る前はギッシリだった駐輪場が今ではガラガラだった。
集合郵便受けを開けると、チラシやダイレクトメールが入っていた。迷惑だ。
階段を上がって自分の部屋を目指す。
キッチンで玉葱を炒めてると玄関ドアが開く音がした。不和倫子だった。
「久しぶり」
「お腹ペコペコ、手伝うよ?」
「今夜はチャーハン、冷蔵庫から卵を出してほしいな?」
倫子がシャカシャカと卵を溶かす。
「そーいやアパートの住人随分減ったな?」
「富国強兵だから仕方ないよ」
「ハ?」
「国防軍が設立され、徴兵制も復活したじゃない?」
「何の話だ?」
スマホの時計を見て驚いた。
2025・6・13
時間が進んでいる!?
夕食を済ませて、ソファに座り洗濯物を畳んだ。 ニュースを見た。
ヤマサキを殺した犯人がつかまった。
長野だった。動機は『疲れていた。誰でもよかった』
トイレに入って拭き掃除をした。
陰毛が落ちていたのだが、僕の毛じゃない。
倫子のものでもなかった。
この部屋には僕たち以外の人間がいる?
男?
高瀬川沿いを歩いた。
市街の中心の大津町から今市町にかけて東西に流れる全長12㎞の水路だ。
しかし最近、おかしな夢を見る。死んだヤマサキが第9惑星に出掛けたって夢だ。
ヤマタノオロチの銅像の前のところまでやって来た。乱暴者だったスサノオノミコトは、姉のアマテラスオオミカミを訪ねて高天原にやって来たが、乱暴を働き追放されてしまう。
斐伊川上流の山里に降り立ったスサノオは、老夫婦からオロチが毎年娘をさらっていくのだという。
スサノオはオロチを倒して、クシイナダ姫と結婚するのだった。
きちっと刈り込んだ黒松に囲まれた家が広大な田園の中に点在している。
北西の季節風を避けるための築地松って奴だ。
生け垣の前にハサミを手にした男が立っていた。
スタンドのマネージャーだった。
「紀香の為だったら手を汚すことも厭わない。それにしても、倫子っていい女だな?」
「犯人はアンタだったのか?」
「知られた以上は生かしておくわけにはいかない、死ね!」
グサリッ!ハサミが胸に深々と突き刺さる。
しっ、死にたくない!
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