雪の音

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雪の音

もう、振り返らない。 足元は、いつのまにか積もりたての雪で真っ白だ。 私の家と、彼の家の最寄駅の真ん中の駅。その改札を出たところ、ロータリーの横にある小さな花壇の前。 二駅ずつでちょうどいいね、と初めて待ち合わせしたのもここだった。 幾度となく行き来した。 それも、今日で最後。 ふたりで話し始めた時分には、着ている黒いコートの肩に雪の結晶がふわりと舞い降りて、溶けていくのが見て取れた。 いつのまに、こんなに積もっていたのかな。 時計を確かめることはしない。 もう、覚える必要のない時間だ。 これから別々の道を行く私たちは、お互いに背を向けて、歩き始める。一歩一歩、雪を踏みしめると、みしみしと音がする。 今日を思い出すたび、この駅を通り過ぎるたび、似た声が聴こえるたび、思い出すのだろう。 きっと、私の心に張る糸は、甘く懐かしく、そして抉るように震えるのだろう。 あのはじまりの日を、あの瞬間を、どうか彼が後悔していませんように。 そしてどうか、今日この手を離したことを、死ぬまでに一度でも心の底から後悔しますように。 ちょっとだけ、意地悪に祈る。 進む。足跡。進む。足跡。 一歩進むたびに、足元から前へと進む音が鳴る。 雨じゃなくてよかった。 雪は、足跡を消すから。 もう振り返るべき道はない。 さよならの音がする。 夜空には、星の代わりに降る雪が、白く瞬き続ける。
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