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かずは大きく寝返りを打った。
「うにゃっ」
銀は転げ落ちる。
かずはすかさず銀の脇を抱え、布団の中に引きずり込む。
「…………」
居心地悪そうな銀を優しく撫でてなだめながら、さあ、このまま安眠へと突入だ。
と、ごそごそと落ち着かない銀は、ほどなくかずの脇から耳許をスルリと抜けて、布団から脱出した。
「あっ」
逃げられた。しかも奴は再び掛け布団の上、かずの胸の上に陣取る。
「むむっ」
再び寝返りして、仰向けから横向きに体勢を変える、かず。
「うにゃっ」
再び転げ落ちる銀。
ザマーミロ。横向きならば上には乗れまい。
さあ、このままあきらめて、私の足元か腹の横の辺りで寝るんだな!
私も布団の中にお前を引っ張り込むのはあきらめてやるから。
しかしかずは、銀の暖かい座布団への執着を、甘く見ていた。
銀は再びよじ登る。横向きになったかずの腰骨の上、狭く細い空間に、手足を縮めて無理矢理乗る。
マジですか?
両手両足の接地する面積はわずかに10㎝四方だろうか。
不安定だろ? 窮屈だろ?
銀は涼しい顔で目を閉じる。
ちくしょー、そう簡単に寝させてなるものか!
かずは、身体の向きをちょっと傾ける。
一瞬グラつき、目を開けて踏ん張り、かずを窺う銀。
少しずつ身体の傾きを変えて行く、かず。
手足を小刻みに動かし、微妙に位置を変えながら、布団の上で踏ん張る銀。
さすがの身体能力!
抜群のバランス感覚!
サーカスの玉乗りか、お前は!?
そうまでして暖かい座布団が欲しいのか!?
何がお前をそこまでさせる!?
謎だ。
とりあえずは引導を渡すため、身体を完全に倒す。
「うにゃ」
ようやくあきらめた彼は、しかたなく、かずの足元に寝場所を移す。
ふっ。勝ったね。
かずはほくそ笑み、改めて眠りにつくのである。
ある夜、かず宅では同期の飲み会が開催された。当然そのまま皆、雑魚寝である。
翌朝、寒くて眠れなかったと皆が言う。
ああ、猫の出入り用に常時10㎝開けてあるからなあ、と、悪びれもせずにかずは答える。
「寒くはなかったけど、重くて寝れんかったわ、俺」
リクライニングのソファに埋まり込むように寝ていた一人が言った。
「夜中に大きな猫が胸の上に乗ってて。苦しくて金縛りかと思った」
かずは独りごちた。
銀よ。手当たり次第だな、お前。
ま、これもまた、日常。
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