浴室でお見合い

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かず宅でも昔、一人暮らしになる前は、ずっと猫を飼っていたが、みな日本猫だった。 隣家の飼い猫は、銀を筆頭に、洋猫との雑種が多い。 日本猫の生態しか知らないかずから見れば、洋猫と日本猫は同じ猫なのにずいぶん違うように見える。 洋猫の柔らかくて深い、密集した毛並み。 日本猫の短くてスッキリした毛並みとは、手触りからして違う。 寒い地方が原産ということなのだろう。真冬でも日本猫のようにコタツに潜ったりはしない。 スッと長く伸びる尻尾。 日本猫の折れ曲がった短い尻尾からは考えられない、しなやかさ。 そして洋猫は、飯時でもめったに鳴かない。 日本猫はうるさいほどに鳴くのに。 猫に対して普段はあまり関心を払わず、撫でたりいじったりしないかずであるが、 この時はなぜか猛烈にイタズラ心が湧き上がった。 尻尾の先をつまんでみる。 「にゃっ!」 どうもウィークポイントらしい。 左のヒゲを引っ張ってみる。 右目を開けて頬をひきつらせる。面白い。 今度はヒゲを両方引っ張ってみる。 両目を閉じたまま口を半開きにし、頬をプルプル震わせる。 面白い。 耳の中の毛をいじってみる。 途端に耳をピッタリ後ろに寝かせて、じろりとかずを見る。 耳を伏せた顔は何だかのっぺりしていて新鮮だ。 頭を手で覆って耳を後ろに倒させ、耳無しの顔にしてみる。 「おお銀、まるでアザラシのようだよ」 手を離した途端、銀は頭をプルプルと振るわせる。 ヤバい、面白い。 手の肉球をふにふにとつまんで、そのたび爪が出たり入ったりするのを観察する。 「うにゃっ!!」 シャッ! 爪を出した銀の腕が瞬時に伸び、かずを攻撃に来る。 おおっと~!! セーーフ! 危ない危ない。 濡れ手でいじられることに我慢ならなくなった銀は、ふいっと立ち上がり、とっとと風呂場から出て行った。 あ~、いいとこだったのに。 こうしてかずと銀の初めてのお見合いは、かずがフラれて無事に破談となった。 かずが風呂から上がると、ベッドはいつものように銀に占領されていた。 たまには取ってみるコミュニケーションも、所詮はここまで。 結局二人はそれからも、我関せずの他人な関係を続けていくのである。 ちなみにアザラシ顔は、今でもかずのお気に入りである。
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