ビジネス同居

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 城山が部長から呼び出されたのは、外回りの報告書を仕上げている最中だった。 「城山。急で申し訳ないが、明日から落合くんと同居してもらうことになった。よろしくな」  意味不明。そもそも我社には落合という苗字の人物すらいない。事態を把握しかねていると、上司から書類を手渡された。  そこに載っていたのは、親会社の新事業の詳細。 「食事を楽しく。あなたの食卓を彩ります」とキャッチフレーズが踊る書面に目を通す。  一人暮らしの高齢者向けの事業で、食卓を共に囲む人間を派遣するサービスらしい。  高齢者の話し相手になるだけでなく、利用者の精神の充足、生活の質の向上に効果があるそうだ。  書類には高齢者の声が載っている。塞ぎ込みがちな祖母が、人材派遣により明るい笑顔を見せてくれるようになった。職員が利用者の異変に気づき、大病を未然に防ぐことができた。  食卓を共にするだけで、そんなに効果が出るものなのか。半信半疑の城山に、部長の声がかかる。
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