ビジネス同居

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 同居は悪いことばかりではない。  同居と言っても、互いに別々に過ごすことが多い。休日になると落合は外出することがほとんど。出勤の折は、夜九時から朝五時の間だけ。互いのプライベートを詮索することのない、気楽な同居だ。  会社から検証に協力する費用として、毎月十万円支給されるのも魅力的。用途は自由で追求されない。給与の上がらない城山にとって、ありがたい臨時収入となっている。  同居のルールはとてもシンプル。  必ず夕食を共に食べ、記録をつける。それだけだ。  週に何度か精神科医から問診され、日誌の提出を求められる以外、普段と変わらない生活を送ることができた。  食事の支度は城山が担当している。  趣味程度だが、料理は得意だ。  家事が得意な男性は結婚に有利。そう信じて料理教室に通った過去がある。  おしゃれなカフェを発掘し、一人ドライブしてはデートスポットを開拓。休日はジムで体を絞り、清潔感漂う服装を心がけ、いつ誰と会っても大丈夫なように準備してきた。  しかし願いは叶わず。人生半分を過ごして、昇進も暖かな家庭も手に入らなかった。  城山は口下手だ。  何を言われても、世辞の一つ言えやしない。女性に声をかけられれば相槌で精一杯。  この歳になってようやく、人生が上手く廻らない理由がそこにあると気づいた。  もう少し早く原因を解消できていたら、城山の人生は変わっていたのだろうか。
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