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「落合くんは良いね。エリート街道まっしぐらじゃないか。なのにいつもすまないね。俺みたいな、うだつの上がらない男と同居だなんて。はは、申し訳ない」
何か話題を。と、喋ってみたものの。城山自身、何を言いたいのかさっぱりだった。落合に礼をしたいのか、謝りたいのか、自身を貶めたいのか。
こういうところがダメなのだと、言った後に反省する。
「料理人はどうですか」
淡々と箸を動かしながら落合は言う。
「ホテルのシェフ、喫茶店のマスター、和食、洋食の達人。料理が得意なら、目指してみるのはいかがですか」
「そうだね。俺がもっと若ければ、挑戦しても良かったな。気づけばもう五十。何かを始めるには遅すぎたよ」
城山は乾いた笑い声を上げる。相手はその自虐的な反応を見逃さなかった。
「何故ダメなんです」
「だから、歳が……」
「何かを始めることに、歳は関係ありません。やるか、やらないか。それだけです。城山さんはやらない理由をたくさん並べて、何が楽しいんですか」
「ははは、これは、手厳しいなぁ……」
「本気でやれば、わずかでも可能性があります。ですが、やらなければ何も起こらない。勿体無いですよ」
「……」
黙りこくる城山を一瞥し、落合は食事の締めの挨拶を呟いた。そのまま彼は黙って座っている。
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