ビジネス同居

8/8
前へ
/8ページ
次へ
 共に夕食を食べるのが決まり。そのため、相手の食事が終わるのを待っているのだ。  居心地の悪さを感じながら、城山は箸を進める。  カチャカチャと、食器の擦れる音が単調に響く。 「城山さん」 「は、はい」 「すみません。先ほどの言葉、訂正します」  ぺこりと頭を下げる落合。勤勉そうな、かっちりとした礼だった。 「今城山さんが料理人を目指したら困ります。この美味しい夕食を食べる機会が、減ってしまうかもしれません。僕は、毎日城山さんの食事が楽しみなんですよ」  城山は目尻を下げて答える。 「ありがとう。お世辞でも嬉しいよ。でも、もし料理人になっても、夕飯はいつも通り作れるさ。大丈夫だよ」 「いえ。帰宅が遅くなり、難しくなります。きっと」  大きな夢は見れなくとも、自分のささやかな行いが、誰かのために役立つのなら。  そういう人生も、悪くない。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加