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「そういえば、おばちゃん、汽笛が聞こえるって言っていたわね」
私は頷き、以前母から聞いたことがあると返す。
「菊子さんとおばちゃんが発見された場所からは、汽車の走る姿が見えたそうよ。もしかしたら、そのときも、汽笛が鳴っていたんじゃないかしら」
従姉はすっかり冷めてしまった湯呑みを見つめた。
私が見た「菊姉ちゃん」は、死に際の母が懺悔の念から見せた幻だという気がしてならなかった。こういうことがあったのだと、当時は伝えられなかったことを私に知らせてきたのかもしれない。
今となっては、真実は何ひとつとしてわからないし、できることなど何もない。遺された者は、ただ此岸に旅立った者を弔うだけである。
ふと、仏壇の前に置かれた骨壺を見やれば、線香の煙がくゆりと揺れた。
了
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