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何故母が目撃したとわかるのだと尋ねれば、伯父も見たからだそうだ。二人の姉妹を置き去りにして、逃げていく男の後ろ姿を。
「最初は、菊子さんの変わり果てた姿に恐れをなして逃げたのだと思ったらしいんだけど、菊子さんを下ろしてみると、首に手で絞められた跡があったらしいわ。結局、ろくに調べられることもなく埋葬されてしまったそうよ」
その後、相手の男は上京し、大学を出たのち、親から薦められた女性と結婚したそうだ。伯父は、相手の男が「菊姉ちゃん」を殺したのだと信じて疑わなかった。
「駆け落ちなんて口約束で、菊姉ちゃんが邪魔になったんだろうって言ってたわ。本当かどうかは定かじゃないけれど」
金沢に向かう列車で見た「菊姉ちゃん」の首はどす黒く染まり、縄状の跡と、大きな手の跡が残っていた。たとえ夢でも、あれが真実の姿ならば、絞殺されたのは疑いようもない。
愛した男に裏切られ、殺された「菊姉ちゃん」。
もし、両親に告げ口しなければ。
もし、家から出さなければ。
母の悔恨がうっすらと想像できた。認知症の影響か、何かの折りに、記憶の奥底に沈んでいた過去が蘇ったのだろう。とくに、雪の夜は、「菊姉ちゃん」が死んだときを彷彿とさせる夜は、母にとって苦痛でしかなかったに違いない。
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