雪夜行

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 暗闇に白く降り積もる雪を見て、母は錯乱したように泣いた。うわ言のように「ごめんなさい、菊姉ちゃん、ごめんなさい」と繰り返す母に、私は戸惑うしかなかった。何を言っても届かず、途方に暮れるしかなかった。  やがて母は泣き疲れ、布団に入らせると、そのままことりと眠ってしまった。翌朝、昨日はどうしたのかと尋ねれば、母はまったく覚えていなかった。私はそれ以上尋ねることができなかった。「菊姉ちゃん」は、母にとってタブーなのだ。昨晩のように錯乱したらたまらないと、私はすぐに話題をかえた。  あのとき、聞いておけばよかったかもしれないと、今になって後悔する。母が苦しみを抱えたまま旅立つのは、何とも後味が悪かった。今の私には、母の懺悔を聞くことしかできないのだから。  私は目を閉じた。列車の揺れが眠気を誘う。意識がすぅっと沈んでいくのを感じながら、私はふたたび眠りについた。  夢を見ているのだと自覚したのは、しばらく経った頃だった。  甲高い悲鳴のような汽笛が鼓膜を揺らす。車内の古めかしい内装に、どうやら汽車に乗っているようだ。     
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