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車内にアナウンスが流れ、もうすぐ金沢駅に到着すると告げられる。そこでようやく、従姉からのメールに気がついた。つい先ほど、母は従姉に看取られて亡くなったそうだ。駅に着いたらすぐに病院に向かうと返し、携帯をポケットにしまう。
母の死を実感する余裕は、今の私にはまだなかった。
***
施設で倒れた母は、すぐさま病院に運ばれたが、意識が戻ることなく安らかに逝った。施設から従姉に連絡が行き、彼女が駆けつけたときも、母は反応を示さなかった。泣き腫らす従姉に迎え入れられ、病室に足を踏み入れる。ベッドに横たわる母の体はずいぶんと小さかった。
列車での悪夢を引きずっているせいか、母の眠るような死に顔に私は安堵した。すくなくとも、「菊姉ちゃん」のように苦しんで旅立ったわけではないのだ。痩せこけた頬をひと撫ですると、わずかに体温が残り、生きていた余韻が感じられた。
そこでようやく、私は母が死んだという事実に直面し、込み上げてくる嗚咽を漏らした。
母の葬儀は慎ましやかに行なわれた。親族は私と従姉ぐらいで、あとは施設の関係者や安アパートで暮らしていた頃の知人が弔問に訪れた。
従姉と落ち着いて話ができたのは、葬儀が終わってからだった。骨となった母は、納骨までの間、伯父の家の仏壇に置かれることになった。仏間と続きになっている居間で、私は従姉とひと息入れていた。
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