0人が本棚に入れています
本棚に追加
えっと、何が起きたんだっけ。さっきまで俺は何をしていたんだっけ。何かとても大事な事があったはずなのに、思い出せない。許せない、苦しくて怖い何かがあったはずなのに、思い出せない。黒い、そう、黒い何かが教室にいたんだ。そして、教室で、あいつらは、あいつらは……駄目だ。
砂嵐のように、記憶の隅で思い出したいそれを思い出すことが出来ない。
体が重い、まるで何かに体を押し付けられたかのように動けない。何かが腹の上で動いたような気がした。気のせいか、腹の辺りばかりが重い。
「・・・・・・・・・」
声も出ない。口すら塞がれているようだ。意識も朦朧で、夢のようなそんな白昼夢を見ている。声も出せず、目も開けられない。金縛りに包まれている。
「誠」
誰かの声が聞こえた。確かに聞こえたのだ。小さく、か弱く、まるで子猫のように小さい悲しげな声だった。
誰なんだろう。俺の名前を呼ぶのは。
ピクリと、指が動いた。指先に触るのは、これは砂。砂だ。
腕に力を入れてみれば、意外とすんなり動いた。このまま上に持ち上げると、微かにズサーーと言う音が聞こえた。ならばと、もう片方の腕も持ち上げ、そして、頭胴体等の残った上半身を前屈みに持ち上げる。残った砂が腹へと落ちていく。
重かったからだ軽くなり、手で顔に残った砂を落とす。そして、ようやく初めて視界が開く。
どういう訳か、先程から暑く。制服なんて着ていられない程だった。目を開けてみれば、それは納得はいったが、別の方向で納得がいかなくなってしまった。
「は?」
辺り一面に広がる砂。砂漠だった。
いや、待てよ。どうして、俺は砂漠で気を失ってたんだよ。意味が分からない。
両手を顔に伏せ、これが夢じゃないかと。頬を叩いてみる。が、夢は覚めない。そればかりか、目が冴てしまい、むしろこれが現実であると叩きつけられてしまった。
「ん、んん」
ふと、腹の方で声が聞こえた。それは、先程顔やらから落ちた砂の山からで、そこに手を突っ込んでみると柔らかい何かが手に当たった。柔らかい毛が手に当たる。
両手で、それの腹部を掴むと腹の上の砂山から持ち上げると、それが猫であると分かった。
いや、なんで。
「猫だ」
しかも、三毛猫。意外と可愛い。
昔、猫を飼っていた俺には、ピンと来ない訳がなかった。
「ふぁあああああ」
最初のコメントを投稿しよう!