特別な存在

11/15
前へ
/257ページ
次へ
 矢野くんが女子でまともに喋るのは多恵ちゃんしかいなくて、日直や掃除の時間などに必要に迫られて女子と喋る時には男子といる時の明るさは影を潜め、一言だけ返事を返すと、すぐにまた男子のところに戻ってしまっていた。  女の子、苦手なのかな……  男子が苦手な私としては、勝手に仲間意識を感じて嬉しくもあった。  女子が苦手ってことは、自分とも仲良くなれる機会がないってことだけど、私はこうして矢野くんを見つめていられるだけで十分だから。  「矢野くんって、多恵ちゃんとだけは話すよね」  一度、そんな風に多恵ちゃんに話したことがあった。あくまでさりげなく、自然に、嫉妬が声に出ないように、話のついでを装って。  「あぁ、矢野はうちの近所に住んでて、幼稚園からの『腐れ縁』だからね。母親同士が仲良くなってさ、小さい頃はプレイデートって名目でよく会わされてたんだよね。小学校はうちと向かいの矢野ん家がちょうど学区が分かれる境界線だったから一緒にはなんなかったけど、中学入ったらまた顔合わせる羽目になっちゃった。   まったくタイプじゃないのが残念だけどねー。幼馴染で恋人とかさぁ、よく漫画とかアニメとかであるけど、幼馴染がイケメンなんてシチュ、現実にはなかなかないよねー」  大口を開けて笑った多恵ちゃんに、失礼なのではとヒヤヒヤし、矢野くんに心の中で詫びながらも、多恵ちゃんが矢野くんを好きではないと聞いてホッとしたりもした。
/257ページ

最初のコメントを投稿しよう!

267人が本棚に入れています
本棚に追加