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「え? なんでおネエ言葉になってるかですって? いいじゃない。理由なんて」
夕餉にカーリャ様の用意してくださった豆と肉の煮込みを、向かい合って食べながら、失礼を承知で聞いた質問の答えはあっけらかんと躱された。
そう返されては「確かに」と頷く他無い。
二の句に困り、煮込みをひたすら口に運んだ。
すると、カーリャ様はスプーンを皿の中で掻き回してぽつりぽつりと話し始めた。
「知りたいなら教えてあげる………。ちょうどあんたが出て行った頃かしら。鎧師としての修行中、雑念が増えるようになって来て。母に相談したら七日間森の洞窟にこもって断食したら雑念を断てるって。でね、来たのよ! 本当に七日後に『ドカーン』って、お告げがね! 私の鎧師としてのあるべき姿がね! それ以来、猛修行して、今は母の腕を立派に継いでるわよ」
「それはもう、存じています。王都でもバーベルスベルクの鎧は垂涎のまとですから。……それで、このカーリャ様の姿が『あるべきお姿』なのですね? 立派な鎧師におなりになっても」
「そうよ。文句ある?」
「いえ……ありません。とてもお似合いです……」
私は食べ終わった後の皿を脇によけて、水を飲んだ。
「ところであんた、ガッコ終わったらどうするの? 王立騎士軍に入るの? 卒業したらデキる人は引き抜かれるんでしょ」
カーリャ様は肘をつき、組んだ手の上に顎をちょこんと乗せて尋ねた。
そんな風にじっと覗き込まれると、どきどきしてしまう。
「え……と、あと一年ありますから……その後のことは、まだ考えていません」
「じゃあ、帰って来なさいよ。ここ、あんたのウチなんだから」
その言葉にぐっと胸が詰まる。
「必ず帰って来ます!」
私は間髪を入れずに答えていた。
その夜、私はカーリャさまのベッドで何度も寝返りを打っていた。
旅の疲れで体は鉛のように重かったが、ナダイ様を失った哀しみと、こんな時に不謹慎であるかもしれないが、なによりカーリャ様と暮らせる歓びに神経が昂っていたのだ。
子供の頃のカーリャ様に密かに抱いた淡い恋心。
それはたとえカーリャ様がオカマになろうとも、変わらずに再び芽吹いたのだった。
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