トロンプ・ルイユ

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   コメントやレビューの書き込みはない。きっと投稿されてから、まだ日が浅いのだろうと男は思う。    これまで他人に自分の作品を見せた事がなかったのは、どうせ見せるなら最高の作品を然るべき人物にという考えがあったためである。が、いざ他人に自分の作品が読まれれば、何らかの評価を受ける事に、男は疑いを持っていなかった。  混乱と憤りを感じながらも、自分にとっての初めての読者達は、この作品にどんな感想を抱くのだろうかという興味が沸いてくる。    殊更今回の作品には、強い手応えを感じていた。飽きっぽい上に完璧主義な性格故、短編とはいえ一つの小説を最後まで書き上げたのは久方ぶりの事だったのだ。  添削を入れたい箇所が未だ無数に残されているものの、このままでも小説としての形態は成している。  本よりも気軽に読もうとする読者が多い投稿サイトでは、寧ろ今のままの方が簡潔な文章でまとめられているため、好まれるような気もした。  何より自分の考えたこのストーリー。この稿という内容は、正しくこうした形で読まれるために創作されたような筋である。  それを思うと、自分の作品への自信と期待を感じずにはいられなかった。  しかしいつまで経っても、画面上の作品ページに変化は現れない。
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