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足を踏み入れた瞬間、己の愚かさを呪いたくなった。
だが、時すでに遅し。
ここがどこだか定かではないが、おそらく我が家への道のりを自分の足で歩き抜くことはできないだろう。
「ごめんね、苦しかったでしょ?」
ああ、苦しかったとも。一体どれくらいの間そのリュックの中にいたと思っている。
村のボスの俺じゃなきゃ、とっくに窒息死していたぞ。
抗議のつもりで鳴いてみたが、美琴ちゃんは「そうかそうか」と笑うだけだ。
...こいつ、絶対わかってないだろ。
いつものことなのでさっさと見切りをつけて、初めて見る室内に神経をとがらせる。
やはり、俺の予感は的中している。
間違いない。
この部屋には、もう一匹、いる。
「あーちょっとー」
何時間か前にいた大きい家とは全く違う。
こぢんまりとしていて、台所も風呂場も、全てが小さい。
何より気になるのは、外の様子が騒々しいことだ。
唯一の共通点と言えば、そのオンボロ具合だろうか。
住み心地は、そこまで悪くないとみる。
それにしても、美琴ちゃんは本気で家出をしてきたようだ。
ここ数日やけにべたべたしてくると思えば、俺を道連れにする気だったのか。
くそう、だまされた俺の馬鹿だった...。
荷物は俺を閉じ込めていたリュックと、ピンクのスーツケース、その上に乗せられた独特の形をしたケースだけ。
ケースの正体は、俺にはわからない。
そのケースに近づけば美琴ちゃんはものすごく怒るから、すごく大切なものなのだろう。
大切なものは俺に触られるとダメになるとでも思ってるんだろう。失礼な話だ。
美琴ちゃんがどうして家出をしてきたのかはわからないが、彼女の部屋から毎晩のように聞こえてくる音はひどい。
それがここでも聞かされることになったら、俺はほんとうに我が家に帰ってしまうかもしれない。
「そうか、ごめんね。お腹すいたよね」
たしかに、腹は減っている。
だが、どうして俺を巻き込むんだ?
俺にだって自分の世界がある。
恩人でもある美琴ちゃんには悪いが、彼女が俺らの世界に足を踏み入れようものなら、一瞬にして下っ端にされてしまうだろう。
それに、あの新入りにはまだ教えないといけないことが
「どうぞー」
...今はとりあえず飯にしよう。話はそれからだ。
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