気にくわないあいつ

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食事中に1番無防備になる といういつかのお言葉は、事実のようだ。 だから、近づいてきた気配には全く気づけなかった。 自分の目の前にあるのをしっかりガードしてから 「あーっ、可愛いーっ」 振り返ると、いた。 もう一匹。 「ほら、ソラくんだって。仲良くしてあげてね」 くそう、そんな毛色しやがって。 しかもオスかよ。 せめてメスであればいい年頃なのに、よりによって生意気盛りだ。 「ダメだって。仲良くしてよ」 ダメだ。こいつがこの味を知るには2年早い。 「こらっ」 皿を動かされると、床にぽろぽろと貴重な食料がこぼれていく。もったいないことだ。 「この子の面倒みるっていうので家賃まけてもらってるんだから、意地悪しないで」 どうやら本気で叱られているようだ。 そんなに長々と喋ったって、右から左。そこは父さんと一緒だ。 猫なで声を上げておけば、「いい子だねー」ともみくちゃにされる。 「誰とでもお友達になれるもんね」 ...狙いはそこか。あれは「お友達」ではなく、手下なのだが。 新しい皿が差し出される方をみると、すました顔で待っている姿があった。 あ、こいつ、気にくわないタイプだ。都会かぶれの、田舎者を馬鹿にしてるヤツ。 偏見? そんなの人間と同じさ。気の合うヤツ、合わないヤツ。 同じ生き物ならみんな仲良し、なんてのは人間にだけは言われたくない。絶対に。 「あー...明日は晴れかあ...」 そういえば、ここには黒い四角がない。 美琴(みこと)ちゃんはあの小さい四角とにらめっこしていれば満足なのだろうか。 俺から言わせてもらえば、毎朝の追いかけっこが楽しみで仕方なかったんだが。 まったく、ここに来てからロクなことがない。 皿をピカピカにしてから、四角に夢中な美琴(みこと)ちゃんを横目に、探検を続けることにする。 こっそりスーツケースと黒のケースを踏んづけて、先を急ぐ。 冷気がやって来る方へ、興味をそそられるままに隙間をくぐる。 一瞬、どこへやってきたのかわからなかった。 ギラギラと眩しい。 空を見上げれば丸い月が輝いているのに、ここは暗闇も静寂も嫌っているようだった。 夜の趣がわからんとは、あいつらはたかがしれている。 うんざりして、引き返そうとしたときだ。 嫌な予感が的中した。 あの音だ。
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