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第一章 プロローグ 手
やけに朝日のまぶしい朝だった。
新聞配達のアルバイトをしている鈴木良太は、代田八幡神社の前の環七の坂道をバイクで登っていた。2010年7月14日の朝の5時頃の事だった。
良太は俳優を目指して、劇団に所属していた。
無論、無名な良太に給料を払う劇団などない。良太は様々なアルバイトを掛け持ちして生計を立てていた。新聞配達のアルバイトもその一環である。
坂道を登りつつ、良太の目ははある物体に釘付けになった。車道の左端の車線の隅に、人の手のようなものが落ちていた。
赤黒く染まった手のような物体である。
最初、良太は、それが手だとは思わなかった。
赤い変な物体が落ちている、何だろうとだけ思ったのである。良太はその物体の手前で、バイクを停車させた。
後ろから、クラクションが鳴らされて、良太は振り返った。左側の車線を塞いで停車した良太のバイクに後ろの車が、怒ってクラクションを鳴らし停車したのである。
良太はバイクを左車線のさらに左に寄せ、歩道に乗り上げて停車した。後続の車は良太を避けて通行していった。
何だろうと思って、近づいたが、どう見ても人の手のようにしか見えない。しかも血まみれの手が落ちているのである。
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