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こんなものやめてしまえ、と何度言われたことか。コンピュータでは処理が面倒だ、カレンダー屋が面倒だ、計算が面倒だ。面倒面倒面倒。
でも面倒にはこう反論してきた。イデオロギーとして全く相容れないはずの赤旗まで結局は面倒だからと今更『こんなもの』を記すようになったじゃないかと。そして決定前の『こんなもの』をすっぱ抜くためにマスコミが周りに探りを入れてきている。前回はそれでスクープ騒ぎが大変なことになった。
『こんなこと』に振り回され、人々のどっちにでも働く『面倒』のために私は働いて、こうして身体を痛めつけている。
――それでも私は、この制度に望みを持ってしまう。だから選ばれたのだと思っている。
――そのために国文学の研究をやってきたのだ。
一応その『こんなこと』の案をつくるのは有識者となっているが、今回政治だの文科省のごたごただので時間がなくなり委嘱されるのも遅かった。それなのに『こんなこと』の決定の手続きの期限は前倒しされてしまった。作業できる時間は細らされた。案が決まっているという説は半分は本当で、不測の事態のために幾つかすでに案がある。だが、今回のために平泉に内閣から委嘱され、あんを作ることになった。
もともとこの決定は平安時代から前々回までは菅原氏が行うと決まっていた。今風に言えば『こんなこと』、つまり元号を決める職人がいたのだ。江戸時代は幕府主導となったがまだ菅原家。明治への改元は菅原家の提案した2、3の案から明治帝がくじ引きで選んだ。そして現代では大学教授が有識者として委嘱されて決める。
平泉教授は65歳になろうとしている。足腰だけは弱らせたくないと未だに電車で東京近郊の大学に通っている。その道の途中で学生と合流するが、とくに言葉はかわさない。少し会釈されることもあるのだが、どこか距離ができてしまった。学生もこの委嘱のことを察しているのではないか、ともはや神経症になりかけている。
時代錯誤の望みだというのはわかりきっている。ただ、その時代錯誤を面倒でやめろといわれ、面倒で支持されるというのはどういうことなんだと思う。筋を通せというやつにまともな筋を通すやつはいないと思ってきた。人間は言いがかりに使えればなんでも使う。とくに今の時代はそういう時代だ。
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