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「だ、大丈夫です。ハンカチ、汚しちゃうからいいです」
「別にハンカチの一枚くらいどうってことないよ」
「でも、あの……」
「俺はすぐ行くから、気にしないで使えば?」
彼はあまり心配しているふうでもない、むしろ面白がるような表情を浮かべ、ハンカチを私に押し付けるように寄越すと、そのままいってしまった。
それが彼、龍との最初の出会いだった。
あの膝の傷はまだ今もうっすらと赤く残っている。多分、一生消えることはないだろう。
痛くて、なつかしくて、思い出すたびについ苦笑してしまう出会い。人生で一度の大事な出会い。
けれどそのときの私は、その出会いの重要さになんてちっとも気づいていなかった。
けれど運命は間違いなくこの時大きく動き始めていた。出会いと同じように龍との再会も唐突に訪れて、私を驚かせることになる。
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