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無言でベッドの下に落ちていた私の服を拾い上げようと身を屈めようとしたら、いきなり腰を引き寄せられて、龍の腕の中に再び引き込まれた。
額をぴったりとくっつけられて、逸らすことができないようにしっかりと視線を合わさせられた。
「瑤子のせいで、また熱が出るかもしれない」
「どうして?」
声が少し掠れた。
「瑤子が傍にいると身体がぶっ壊れるまで何回でもしてしまいたくなるだから」
そんなこという龍に、行き場のない怒りと悲しみといとおしさと感じて唇を噛む。
「それなら、何度でもして。そうして龍が病気になっちゃったら、日本から出られなくなるでしょう?」
数秒の沈黙が流れてから、龍はふっと笑って私から顔を離した。
「ごめん、こんな時期にお前を抱いちゃダメだってわかっていたのに、どうしても歯止めがきかなかった」
胸が痛くなった。謝ってほしくなどなかった。
「なぜ謝るの? 私がそうして欲しいって望んだんだよ? 時間がないならぎりぎりまで一緒にいたい。
出発する日までそばにいて私を撮って。それから何度も何度もこうやって抱いて。龍のすべてが私にしっかりと染み込んで、いつでもすぐに龍を思い出せるように。お願い」
龍は目を細めて少しの間私を見つめた。その瞳は何かに耐えているようにも、揺れているようにも見えた。
それから。
スローモーションのようにゆっくりと私の唇に彼の唇を優しく押し当てた。とても丁寧な、何かを優しく分け与えるように濃密になっていくキスだった。
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