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第15話
3月下旬。龍の出発まで1ヶ月を切り、私の留学試験は結果まちだった。試験のてごたえは悪くなかったから、合格できるかもしれないという感触はあった。けれど試験結果よりも、龍のことで頭はいっぱいだった。
あの日以来お互いの家を行き来しながら、ほとんど毎日会っていた。会う、というより一緒に暮らしている感覚だったかもしれない。
龍と一緒にいればいるほど、どんどんかけがえのない存在になっていくことを日々痛い程感じていた。
ふと、ふりかえって私をみたときの笑顔。髪を無造作にかきあげる仕草。シャツを着て、袖のボタンをとめるときに下を向いたときにみせる、ちょっと難しい表情。私をからかうときにみせる、いじめっ子のような表情。
彼と別れたあと、彼のいない世界で生きていけるのか。ひどく不安になるくらいに、それらは優しく穏やかに積み重なっていく。残酷なくらいに。
けれど近づいてくる別れについて、私はなにも言わないようにしていたし龍もあえて触れてこなかった。
龍の道はもう決まっている。その未来に私はいないのかもしれない。そのことで龍を責めることはできないし、そういう状況であることをすべて納得したうえで、短い間でも龍と過ごしたいと願ったのは私なのだから。
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