プロローグ:千英四年、ガライス国境地帯にて(1話)

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 どこか遠くの方で、鳥の羽音のような音が聞こえた。兵舎はしんと静まり返り、兵士たちは皆寝静まっている。静かに寝息を立てる者が大半だが、豪快ないびきをかき部屋の隅に追いやられている者もいる。そんな中、周囲を起こさぬよう、小声で話す誰かの声がした。 「今日、すごい話を聞いたんだ」  声の主は出入り口の前で見張り番をしている関東出身の一等兵であった。芋が好物で仲の良い兵からは「お芋殿」と親しみを込めて呼ばれていた。  彼は興奮を抑えられないような、僅かに上ずった声で、同じく見張り番をしている隣の東北出身の一等兵に言った。 「軍部があんなにも力を持ち、のさばっているのは神託を持っているかららしい」 「シンタク?」  東北出身の一等兵は耳慣れない言葉に首をかしげた。 「北関東の農村で発見されたっていう石板さ。そこには、いまだ大半は解読不明の古代の文字で書かれたこの国の有史以来の全ての歴史が刻まれているそうだ。見つかった日付から916神託と呼ばれてるらしい」 「なんだそれ。夢でも見てたんだべ」  東北出身の一等兵は鼻で笑ったが、関東出身の一等兵は必死に首を横にふった。 「嘘じゃないんだ。たしかな筋からの情報なんだ」 「有史以来って、天照大神の頃からか?」
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