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「あのな。おまえがなにをどう勘違いしてるのかは想像したくもねぇんだけど」
「いや、勘違いって、してるのはそっちでしょ。どう考えても」
「あいつの女癖、クソ悪ぃからな。最近はまだマシだけど、東京にいたころは、もう本当に好き放題遊んでたし」
「いや、俺も普通に遊ぶけど、今は南さんのこと好きだし。それとこれとは関係ないと思うけど」
「……」
「あ、普通に遊ぶって。その、今は普通に遊んでないからね? 昔の話ね、昔の話」
聞いてもいないことを弁解してくるのが面白くて黙っていただけなのだが、時東はなぜか焦ったように「今はしていない」と繰り返している。
――べつに、遊んでようが、なにしてようが好きにしたらいいのに。まぁ、ワイドショーネタにはならないにこしたことはねぇだろうけど。
つらつらと考えているうちに、先ほど考えすぎかと遠ざけたはずの仮定が浮かび上がってきた。
仮予約だのなんだのと言っていたが、先日の店に来た際の態度もあれだったし、この家でこうして顔を合わせてからもあれだったから、てっきり気の迷いだったのかと思い直すところだった。
いや、まぁ、迷いだったと本人が思うのなら、南が口を挟む問題ではないのだが。相手が目の前にいるのに悶々とひとり考えるのも馬鹿らしくなってきて、そのままを口にする。
「おまえさ」
「あ、はい。なんですか」
怒られるとでも思ったのか、時東の背筋がしゃきんと伸びる。
「俺のこと、結局、好きなわけ?」
言った瞬間、盛大に時東が表情で不満を現した。
「今それ聞くの。南さんが」
「聞いたら駄目だったか?」
「駄目じゃないけど。こう、タイミングってものがあるじゃん」
「おまえのタイミングってなんなんだ」
そもそもで言うなら、普通、仮だろうが何だろうが好きと言った相手を忙しかったのだがなんだかは知らないが、ここまで放置はしないだろう。連絡無精はお互い様なので十歩譲って大目に見るが、それにしても久しぶりに顔を合わせた数日前のタイミングで言えば良かっただろう。
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