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「捨てようと思ってたんだけどな」
「あぁ、犬?」
時東だけだとな、と言う代わりに続ける。苦笑気味のそれは我ながら諦めているようにしか響かない。
「なんか、駄目だった」
「おまえ、昔から捨てるの下手だもんなぁ」
「そうか?」
「そうだよ。それで、いつも最後に困るの。相手が離れて行く分には放っておくけど、離れて行ってくれないとどうしていいか分からなくて」
何を思い出しているのか、春風が眼を細める。バツが悪い過去を知っているのもお互い様だが、居た堪れなさは残る。気恥ずかしさとも言うかもしれない。
「馬鹿だよねぇ」
「うるせぇよ」
「ねぇ、それって、『好き』なの。それとも『情』なの」
変わらない調子で続いたそれに、言葉に窮してしまった。沈黙を意にも介さず春風は笑う。
「右足やらかしたときもさ、随分面倒くさいこと言ってたじゃない。余計な世話やくためにここにいるんじゃないだろ、なんて。らしくもない。そのくせ、今度は……まぁ、何を言ったかは知らないけど、受け止めてあげたんだ?」
まだ受け止めたわけじゃない、と答えようとして、やめた。なんだかあまりにも言い訳じみている。それに、――何をどう言いつくろったところで、どうせ春風には見抜かれるのだ。
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