熱帯魚と闘魚

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螺旋階段の上からイワンが手招きした。 仕方なく俺は階段を上がる。 「金貨の事……考えてくれたかな? 私はせっかちなもんでね。 すでに支払いの準備はある。 是非良い返事を聞かせて欲しい。 今夜はパーティー……。 そうだ。君のお気に召す女性がいたなら 連れて帰っても構わないよ。 どうだ? 君はどの美女がお好みかな?」 イワンは階段の上から 片手を広げ美女達を指し示した。 美女達はとびっきりの笑顔で 俺を見つめている。 映画にでも出て来るような 飛び抜けた美女揃いだ。 ── 女にはくれぐれも気を付けろよ。 一瞬キリルの言葉が頭をよぎった。 「ここにいる女性達は皆 モデルさんみたいに美しい人ばかりだ。 でも……。イワンさん……。 アンティークショップのアオイさんと 知り合いだって言ってましたよね? 俺、今は彼女の事がすごく気になって いるんです」 イワンは大袈裟に驚いた顔をして、 小さな声でつぶやいた。 「そうか……アオイか。 確かに彼女は素敵な女性だが……。 でも残念だな。彼女は殺し屋じゃないんだ」 ── 殺し屋?何の事だ……。 騒めきが一瞬にして静まり返る。 静かに流れるクラッシックの調べだけを 残して。 俺はこの時まだ周りの状況が 全く見えていなかった。 イワンの顔だけを見て話をしていた。 「貴方は…… 本来ならば故郷にあるべき宝を集めて いつかご自身と一緒に国へ帰るのが夢だと 聞きました。 あの金貨は……信じてもらえないかも しれないけど、偶然手に入れたんだ。 本来俺が持っているべきものじゃない。 元々の持ち主の手元に戻るべきだと 思うんです。変な金儲けの為じゃなく、 純粋に故郷を想う貴方にアレは…… 差し上げようと思います。 ただ、それには条件がある」 「何だ? 金か?」 イワンは蔑んだような目をした。 「……泥棒猫とやらを責めないで欲しい」 俺はジャムの小瓶を取り出そうとして ジャケットの内ポケットへ手を差し入れた。 あちこちでカチリと言う金属音がした。 階段の下に視線を落とすと 一斉に女達が銃を構えている。 ── 銃の撃鉄を引く金属音……? 全ての照準は俺を狙っていた。
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