手紙

2/5
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
俺は新聞を取るため玄関ポストを開けた。 広告が束になって履きつぶした スニーカーの上に雪崩れ落ちる。 不動産のチラシ。パチンコ屋のチラシ。 アルバイト募集のチラシ……。おっと。 これは捨てちゃダメなやつだ。 新聞は、無かった。 ネットのニュースを見れば 世の中の流れは大体わかる。 俺は新聞の活字で 世の中の表面をなぞるのが嫌いじゃない。 でも……仕事を辞めてから経費節減の為 新聞はもうとってないんだった。 習慣というものは恐ろしい。 袋からパンを1枚取り出し トースターに入れた。 冷蔵庫からジャムの瓶を2つ取り出す。 手のひらサイズの小さいヤツだ。 蓋が茶色と白のチェック柄になってる マロンクリームの瓶。 1つはトースターの上に置いて温める。 もう1つはすでに空き瓶……。 よく冷えた瓶から よく冷えた金貨が10枚転がり出る。 空き瓶の中身をテーブルに広げた。 王冠を乗せた双頭の鷲の紋章の下には 1987の刻印。 やはり間違えなく10枚全部 ……1897年の15ルーブル金貨。 1枚……100万円相当が……10枚……。 震える手で金貨を瓶に入れて冷蔵庫へ戻す。 とりあえず……これをどうするかは 後でじっくり考えよう。 気を取り直して 珈琲専門店『ジェイド』の店主が 挽いてくれたとびっきりの珈琲を淹れる。 ギャルソンが鯰のお礼にくれた物だ。 良い香りが部屋中に広がる。 でも普段飲んでいる インスタントコーヒーとの差が 俺には良くわからない。 残念ながら俺は「違いがわかる男」 ……ではないんだ。 広告の束をゴミ箱に捨てようとしたら、 その中に手紙が混ざっていた事に気付く。 ジェイドの珈琲をすすりながら 薄汚れた手紙の差出人を確かめる。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!