手紙

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俺は慌てて寝癖を押さえ玄関へと走る。 ドアを開けると、 気不味い顔をしたアオイさんが 茶色い紙袋を胸の前に抱えて立っていた。 黒いハイネックのセーターに モスグリーンのスカートが良く似合ってる。 アオイさんの後ろの塀から 白麻呂が澄ました顔で2人を見下ろしていた。 「良かった。お留守かと思ったけど 珈琲の良い香りがしたから もしかしたらと思って……。 昨日は私の仕事の話に巻き込んでしまって ゴメンなさい……。 イワンさんの事は気にしないでね。 決して悪い人ではないんだけど、 少し強引なところがある人だから。 いくら高額で買い取るって言ってもアレは 大事に取っておいた方が良いんじゃないかと私は思います。 あ……これ、親戚から送られてきた 北海道のジャガイモなんだけど良かったら 召し上がって下さい。サワークリームを 塗って食べると美味しいですよ」 一気に話すと、袋の中からサワークリームの箱を取り出して見せてくれた。 「今度ゆっくりイワンさんの件で 相談しても良いですか?」 思いきってそう訊いてみた。 「昼休みは『ジェイド』で ランチしているのでいつでもどうぞ。 実は私もお話したい事があるんです…… でも、それは今度にしますね」 ── お話したい事? 会釈をするとアオイさんは 大家の家に向かって帰って行った。 少し遅れて後ろを白麻呂が歩いて行く。 見えなくなるまで玄関で見送っていた俺は 見慣れない黒塗りの車が 細い路地に停まっている事に気が付いた。 が、その時はさして気にもとめず ドアを閉めた。 山盛りのジャガイモ。 何にしても食べ物の差し入れは大歓迎だ。 ましてアオイさんからのジャガイモ…… 噛み締めて大事に食べよう。 再びドアを乱暴にノックする音。 ── アオイさん何か言い忘れた事でも あったのかな? 馬鹿な俺は満面の笑みでドアを開けた。 立っていたのは別れた彼女……美樹だった。
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