ジャガイモと拳銃

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「ちょ、ちょっと待てよ! 『私が拾ったんじゃない。猫がこの家を 選んだの』そう言っていたじゃないか!」 美樹は意味ありげに微笑み 「今日は帰ってあげる」 そう言って俺の部屋から出て行った。 何日か落ち着かない日々が続いた。 朝、眼が覚めると、 隣に黒豆がいるか慌てて確認する。 面接に出かけた日には、気もそぞろ。 黒豆がパトロールから帰る時間が いつもより遅いと近所を探しに出た。 そんな俺の心配をよそに、 黒豆はいつも以上に自由だった。 夕方黒豆を探している時も、 暗くなってからの買い出しの時も 黒塗りの車は相変わらず裏路地に 停まっていた。 始めは美樹が猫を連れ去る為に 用意した車なんじゃないかと疑ったけれど どうやらそうではないようだ。 晴れの日も雨の日も、朝も昼も夜も、 黒い車は停まっている。 刑事が張り込みでもしているんだろうか? 大変な仕事だな……と 無職の俺はヒトゴトのように思っていた。 ある日の夕方、 黒豆を探して近所を歩いていたら よりによって奴は例の黒塗りの車の ボンネットの上で香箱を作って寝ていた。 俺は慌てて運転席の窓をノックする。 スモークが貼られた運転席の窓が 音も無く下がった。 「す、すみません。 ウチの猫がボンネットに……」 外はもう薄暗いというのに、 運転席ではガタイの良い外国人が サングラスをかけて英字新聞を広げていた。 男は首だけを俺に向けて頷いた。 再び窓がゆっくりと閉まる。 寝ぼけまなこの黒豆を回収すると 俺は急いで家に帰った。 次の日も何故か黒豆は 例の車のボンネットで寝ていた。 たぶんボンネットの上は温かくて 居心地良いんだろう。 それにしても……気不味い。 黒豆をそのままそこに置いて 一旦部屋に戻った俺は途方に暮れながら アオイさんからもらったジャガイモを レンジで温めた。 ── どうしたものやら……。 ジャガイモに十字の切れ込みを入れて サワークリームをひとかけら乗せて食べた。 「美味い!」 切り込みを入れた ホックホクのジャガイモから立ち上る湯気。 そこに乗せられたサワークリームが ゆっくりととろけ、 じんわりとジャガイモに沁み込む。 クリーミーでいてほのかな酸味が まろやかに口の中で広がった。 俺はもう1つ同じように ジャガイモを調理した。 そしてそれをアルミホイルに包むと 例の車へと向かう。
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