* 六花の涙 *

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「茜ちゃん、心配していたぞ。今年の正月も家に帰らなかったらしいな」 そこでばらばらだった糸がピンと繋がった。 そういうことか。 おれの様子を見に行くように、茜が光をけしかけたらしい。 おれは缶尻の形で濡れるコタツの表面をじっと見つめる。 「おれさ。人間に向いていないなって、思うことがあるんだ」 空白を埋めるように、ストーブがごうっと熱風を噴き出す。 「どういう意味だよ」 光がごくりと唾を飲みこむ音が聞こえた。 おれはティッシュでコタツ表面の水滴を拭い去る。 「物心ついたときから、ずっとそうだったんだ」 むかしから意思を伝達することに欠陥があるおれは、なにを考えているのか分からないとずっと両親に言われ続けてきた。 そこに浮かぶ困惑と諦め。 幼いおれは嵐が去るのをうつむいて待つことしかできなかった。 やがて妹がこの世に生まれると、両親の愛情は分かりやすいほどにそちらに傾いていった。 それでやっとおれは安心を手にすることができた。一人の世界で完結することが出来た。 「人との付き合いってのは、キャッチボールって言うだろう」 おれは苦い体験を思い出しながら、想いを言葉にしていく。     
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