* 六花の涙 *

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「それって、たがいに構えたミットへボールを投げることが大切なのに、相手のミットの位置が分からないおれは、いつも明後日の方向にボールを投げてしまう」 他人にどう見られていようが関係ない。 だれもいない図書館で本を読んでいようが、一人でお弁当をつついていようが平気。 心細さは付き(まと)うものの、他人を気遣う必要がないのは居心地が良かった。 だが、そんなおれを心配してくれる奴らが必ずどこかにいて、馴染めないおれをどうにかしようと躍起になるのだ。 そのせいで仲良し集団をなんど瓦解(がかい)させたことか。 おれのせいで優しい奴らの心をどれだけ踏みにじってきたことか。 「べつに悲観ぶっているわけでもなく、自分を哀れんでいるわけでもない。ただ一つの事実として、おれは人の機微をうまく読むことが出来ないんだ」 優しい他人がいつも怖かった。側にだれかいられることに怯えていた。  だからおれは一人になることを強く望んだんだ。 なのに―― おれは結局、一人にはなれなかった。 光と茜だけは、おれを放っておいてくれなかった。 「なあ、蒼」 光は視線をさまよわせて想いをぶつけてくる。 「おまえはさ、おれのことが嫌いなのか。めんどくさいって思っていたのか」 「そんなこと、ない」 嫌いなわけがない。できるなら離れたくなかった。 孤独の影を、光がいつも照らしてくれていた。     
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