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長い隔たりがあったことを感じさせないほどに、茜の話し振りは自然だった。
「なんとなく、あかねと話したくなったんだ」
「へんなお兄ちゃん。わたしは嬉しいけど、こんな時間じゃなかったらもっと嬉しかったな」
そうだった。茜は昔から、感情を示さないおれに歩調を合わせるのがうまかった。
時計を見遣る。
すでに時計の長針は頂点を跨いでいた。
明日も朝一番から大学の講義があるだろうに、申し訳ないことをした。
「ごめん」
「良いよ。それで、どうしたの」
「それが」
おれは頭に浮かんでくる事柄を順序関係なく、けれど脚色することなく喋ることにした。
人付き合いがあまり得意でなく、だれも知らない雪国での生活にずっと憧れていたこと。
それから光がいまここに来ていること。
すると電話の向こうの茜の声が跳ねた。
「良かったね。光さんが来てくれて」
「やっぱり。おまえが光をけしかけたのか」
「うん。そうでもしないとお兄ちゃん、ガードが硬いから」
苦笑していると、茜がふわっと眠たそうなあくびをこぼした。
「お兄ちゃん、たまには実家にも帰って来なよ。お母さんたち心配しているよ」
「そっか。……この雪が止む季節になったら、帰ろうかな」
自分で言っておきながら自分が一番驚いていた。気持ちが追いつかない。
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