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道路脇に停められた車のボンネットには雪が堆く積もり、歩道脇には犬や猫を模した雪だるまが飾られている。
小学生が下校帰りにつくったのだと想うとなんだか愛おしい。
しばらくして見えてきたうどん屋へ駆け込むと、暖房に感謝しつつ近くのテーブル席に腰かけた。
おれは月見うどんにしようと決めていたので迷わなかった。
けれど光は食い入るようにメニューを覗き込んでぴくりともしない。
「どれもうまそうだな」
そのあとも光はうんうんと唸り続け、痺れを切らしたおれが店員を呼ぶ段になってどんとおでんのセットを頼むことにやっと踏み切った。
こいつは飯を頼むとき、最後の晩餐かのように全身全霊で決断する。
いまを楽しむことに余念がないのだ。
「今日は泊めてもらうし、ここと銭湯はおれにおごらせろよ」
「サンキュー」
おれたちはたがいの近況報告をしながら麺を啜った。
光はサークルでの馬鹿話を披露し、合コンで知り合った年下の彼女の可愛さにのろけ、バイトで流す汗がいかに健全ですばらしいかを熱く語ってくれた。
そのどれ一つとして興味を魅かれないおれだったが、その話し振りに自然と頬がゆるんだ。
光はキャンパスライフを存分に謳歌している。
その事実だけでおれの心は満たされていった。
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