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聞き役に徹していたのでさきに食べ終わり、おでんの卵と格闘する光を眺めていると、その手元に眼が自然と吸い寄せられていった。
長袖をまくしあげた左手に見慣れない時計が付けてあったのだ。
銀色のベルトに英数字が刻まれた時計板。
そのまわりをクリアな青で縁取られている。
美しい時計だ。
「その時計、どうしたんだ」
「お、いいことに気がついたな」
光はまるで新しいおもちゃを買った小学生のように得意顔で、おれに時計を手渡してくれた。
てのひらにずしりと重みを感じる。
「うちのバイト仲間に時計に詳しい奴がいて、見繕ってもらったんだよ」
「かっこいいな」
「だろ。結構良い値段するんだぜ」
おれは腕時計を身につける習慣がない。時間を確認するだけなら携帯で十分だと思うからだ。
けれど光は腕時計を付けるのは、なにも機能だけの問題じゃないと力説する。
「これはおれの持論だけど、ファッションってのは究極の自己満足なんだ。だからこそ、着るものや身につけるものに拘ったほうがいい。無駄や遊びがない男なんてつまらないだろう」
おれは時計を返しながらなるほどと頷いた。
こういうスタンスを表明できるからこそ、光は光でいられるのだろうと思った。
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