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言葉が続かなかった光は握手するように自分の手を合わせると、水鉄砲のごとくおれの顔へ湯を飛ばしてきた。
なにが起こったか分からず唖然とする。
眼鏡の水滴を払うと、光は意地悪く笑っているのだった。良く切れそうな八重歯が口角の端から覗いている。
わざとおれに湯を飛ばしたらしい。
カチンときたおれは湯を蹴飛ばして報復した。
湯をもろに被った光はお返しとばかりに、無防備なおれの足を引っ張って湯のなかへと引きずりこんだ。
湯を盛大に飲んだおれは水面に浮上して咽せたあと、怒りに任せて光の頭を湯へと沈めてやった。
すると光は羽交い締めしようと接近戦を挑んでくる。
そのうちにたがいの闘争心がどんどん燃えあがり、そのまま格闘へと発展していった。
光は終始笑顔だった。おれも、笑っていた。
それはとてもくだらない時間だったけれど、小学五年生のときの修学旅行に舞い戻っているようだった。
おれと光とその友達数人で、こうやって浴場で暴れたものだった。
引率の先生に折檻されるまで続けたっけ。
忘れていた懐かしさと温かさに触れながら、おれたちは子供みたいな笑い声を浴場いっぱいに響かせた。
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