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全身が怠い。疲労に犯された僕は睡魔に襲われるたび(痛っ)皮膚にめり込む刃先に触れた。痛みが全身の細胞を呼び覚まし、僕が成すべき役割を突きつけてくれる
確か、この辺だと
暗闇の中、埃のたまった床板を指で探る。五年に一回、シロアリ駆除業者が床板を外し、床下へ潜り込む。どうなってるのかな? 好奇心で床板に触れ、業者に外し方も教えて貰った
あった!
息を殺し、耳を澄まして、人の気配がないのを確認してから板の端に指をかけ、力をこめた。ううう、持ち上がらない。家を持ち上げようとしてるみたいだ。業者の人が床板を支えてたんだ、僕は持ち上げた気になっていただけ。諦められない、諦めるなんて無理。必死に考えを巡らしたとき、ハッと閃いた
痛たたた
皮膚にめり込む刃先を取りだし、床板の隙間に差し込んだ。よし! 指が挿った。痛みを我慢して、ずりずりと腕を滑り込ませ、床下へ潜り込むことに成功した。第一段階突破だ。ナイフの刃先が床板にめり込んで取れない。武器がない、どうしよう、いいや迷ってる暇はない。急がないと、感づかれたらメル兄ちゃんが酷い目に合う
だらんと枝から垂れたメル兄ちゃんの姿を思うと、躯を絞られるような恐怖に震える。見つかったら僕もアレをやられる、怖い、足が竦む。泣きたい、助けてメル兄ちゃん。指一本も動かせない、自分の弱さが嫌になる
『逃げろギユウ』
そうだ、メル兄ちゃんは僕を逃がそうとしてくれた。僕にパニックをもたらした恐怖が、僕を奮い立たせる。怖がるな、助けを呼べるのは僕しかいない
音を立てないよう床下を這い、ほんの少し、薄ぼんやりと明らむ方向へ進む。出口だ。外へ行ける。防犯カメラの位置を確認し、木の根で浮いたフェンスの下をくぐり抜け、灯りのない場所を選んで駆け出した
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