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田中医院院長、田中ダンジは産婦人科を専門とする 「先生! 産道が開きました! 先生! 来て下さい先生!」 田中医院の産婦人科は連日の大盛況で、廊下にまで新生児が溢れている状態だ。法で守られているとはいえ、出産可能者保護法は半年前に施行されたばかり。他の病院では妊夫の試験管ベイビーが出産したと同時に、子を欲しがる有力者へ売られかねないとの疑念が未だ、日本州では拭えきれていない。その為 「後は引き受けます。行って下さい」 休日を利用し、解剖していた外科医のエイジを産婦人科へ呼び、二人で帝王切開や難産の母体に集中していた。専門職ではないのに「一人でも多くの母体を救いたい」ダンジの要請を積極的に請けてくれた息子同然の、エイジの美しい顔に頬ずりし 「すぐ行く!」 見かけに寄らない俊敏さで駆けつけた。陣痛に苦しむ妻の手を握り「頑張れ」励ましていた夫がダンジを見た。いつものことだ、ダンジは気にしなかった。いや、実際は深く傷ついている。ダンジのジャガイモを連想させる風貌はとても、安心して妻を任せられる医者には見えない。大丈夫か? 多くの不安を与えてしまうのだ 「良かった、ダンジ先生が来て下さいましたよ。あのエイジ先生の先生です」 看護士の言葉にパッと夫の顔が輝く。夫の脳内で妻の局部を覗き見る変質者から、先生へと劇的な変貌を遂げたらしいダンジは「ハサミ」看護士にハサミを要求し、妊夫のヒダを切る。ヒダを切るのは胎児の誕生で、妊夫のヒダが裂けないための措置だ。赤ん坊が生まれたのはその三分後だった。元気な声で泣く赤ん坊の臍を真っ先に確認し、涙する母親の言葉は 「ありがとう。僕を人間にしてくれて」 容姿で差別を受け育ったダンジの胸に、ズシンと重く響いた
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