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「婚活ですよ。トーマは妊娠可能者なのでね、25才までにパートナーを選び子を為す責任が課せられてるでしょう」 にっこり微笑んだエイジは白衣を翻し、先頭を歩きだす。皆より一歩前へ進んだのは近衛に好意を抱く、師に対する気遣いだが 「妊娠可能者でしたか。トーマ、キミの伴侶となる幸運を得る男に、俺はなりたい」 積極的な吾川と 「あの・・・・・・僕、人慣れしてなくて」 「失礼ながら、ご両親との関係をお訊ねしても宜しいか」 試験管ベイビーのトーマの人間不信は、虐待によるものと判断したらしい近衛の声は聞こえても、ダンジの声は聞こえなかった 「なかなか強烈な臭いだな」 近衛ジョン判事がハンカチを鼻にあて 「顔面陥没とは穏やかでないな。国の治安を守る我々としては見過ごせない」 ご遺体に手を合わすエイジに気づき、恥じるようにハンカチを鼻から外した。仕事を終えたトーマを西棟へ戻し、エイジは判事たちに遺体の説明を始めた 「こちらのご遺体は新鮮ではないので臭いが少々アレですが、結論から言えば絞殺です。顔面陥没も、腹の穴も息をしているときのこと」 吾川の喉がぐぅぅっと鳴る まだ判事として若い彼は悲惨な遺体を目にしたのも始めてかもしれない。エイジに労りの眼差しを向けられ、吾川の頬が赤く染まる。トーマの夫になりたがっていた男は、からかうでなく慰めの言葉も口にせず、吾川の判事としてのプライドを傷つけないエイジに熱の籠もる眼を向ける 「毒を使用した可能性は?」 「ないですね。腸壁は傷ついて判別不能ですが、胃壁は毒物で荒らされてはいません」 エイジの指が穴の空いた腹を撫でる。官能的に動く白く細い指先に見惚れた己自身と 「爪と爪先の皮膚は綺麗ですし、血液からも抽出されてません。ただ・・・・・・、前立腺が発達していました。このご遺体は、妊娠可能者です」 妊娠可能者殺害の重さに歯噛みした近衛ジョン判事は、エイジの口元に浮かぶ冷たい笑みを見落とした
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