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「もちろん。一昨日もお会いしましたね、レイさん」 エイジ先生だ。通りがかった入院中の子どもが手を振り、ニコリ、エイジが笑みを返す。完璧な造りの容貌に柔らかさが宿る、エイジの笑顔はレイの心をときめかせる魅力を存分に発揮したようだ。トーマからエイジへと、熱っぽい視線を送る相手を変えたレイが、囁く 「エイジさん。あなたが出産可能者であればすぐに婚姻し、僕の子を産んで貰うのに、残念です」 無視。レイの告白に眉どころか、眼球さえ揺らさない。ぷっ、吹き出すルイーズを睨んだレイがエイジの肩に腕を回し、瞠目した 「鍛えてらっしゃるのですね」 「体力勝負の仕事ですから」 エイジの素っ気なさはレイの好みだったようだ。内股を合わせたレイの濡れた息が首筋にかかり、エイジの眉間に薄くシワが寄る。急に乙女な反応をしたレイに興味を引かれたのか、ルイーズがエイジの手を握り 「皮が厚い。エイジさんの手は職人のものだ」 感嘆の溜め息をはく。瞳を潤ませたレイに寄りかかられ、ルイーズに手を撫で回されるエイジこそ、溜め息を吐きたい。胸の内で舌を打ち 「数秒間で糸を数百回結べない外科医は、クズ扱いしかされません。医療ロボットに解剖を任せたりせず被害者の死因究明に挑むのも、外科医としての腕を磨くといった一面があることは理解していただきたい。ところで、田中医院に何のご用でしょう」 レイの腕を肩から払い、ルイーズから手を引き抜いた 「通報がありました。こちらに試験管が極秘に運び込まれたのを見たと」
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