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子供の頃は泣き虫で、いつも遙がいじめっ子から守っていた。
「は~たん」
ちゃんと言えなくて、いつも自分を「は~たん」と呼んで背中を追い掛けて来た幼馴染みは、今でも変わらず自分を追い掛けてくれている。
それが嬉しくもあり、時々苦しくなる
「私も本当に...ズルイな」
ポツリと呟いた言葉にハッとした。
その瞬間、目の前に遙のマグカップを差し出される。
「はい。少しお疲れ様気味みたいなので、今日はお砂糖を少し入れときました」
幸太の笑顔に、遙もつられて笑顔で受け取る。
「ありがとう」
遙の言葉に、幸太は子犬のように嬉しそうに破顔して笑う。
遙は普段、コーヒーはミルクしか入れないのだが、疲れた時や頭を使いすぎた時は少しだけ砂糖を入れる。
そんな小さな変化も、幸太は決して見逃さない。
「はい、これは冬夜さんのです!」
音を立てて、冬夜のカップを幸太が置いた。
冬夜は新聞に目を向けたまま
「サンキュー」
とだけ答えて、コーヒーを口に運んだ...瞬間。
『ブッ』っとコーヒーを吐き出した
「ちょっ!冬夜、何してんのよ!」
遙が慌てタオルを渡すと
「ふざけんな!」
冬夜が叫んだ。
すると幸太は無視して
「何がですか?」
と答えPCを立ち上げている。
その幸太の態度を見て
「俺が気に入らないなら気に入らないで結構だけどな。コーヒー1杯まともに入れられないで、何しに此処に来てんだよ!仕事と私情を分けられないなら、とっとと辞めろ!」
冬夜は叫ぶと、ジャケットを掴んでドアへ歩き出す。
「冬夜、何処に行くの?」
叫んだ遙に
「缶コーヒー買ってくんだよ。こんなクソ不味いコーヒー入れられるんなら、2度と此処のコーヒーは飲まねぇよ!」
と、振り向きもせずに叫び、ドアを荒々しく閉めて出て行ってしまった。
遙は冬夜のカップに口を付けると、激甘コーヒーに思わず幸太の顔を見る。
幸太は泣きそうな顔をして遙を見つめていた。
「これ、どういう事?
冬夜、甘い物が嫌いなの知ってるよね?」
遙は静かに呟く。
幸太はそんな遙に俯くと
「だって...」
とだけ答えて黙り込んでしまった。
遙は溜息を着くと
「幸太、ちょっとこっちに座りなさい」
自分のデスクの前に座らせ、遙はデスクに腰掛けた。
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